PSクラシックのエミュのベースがPCSXであることの本当の問題

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米Kotakuがプレイステーション クラシックの実機を試遊したところ、法的ライセンス表示のなかにGPLv2でライセンスされている「PCSX ReARMed」を使用しているとの表記があったという。
このことによってどんな問題が起こり得るか。PS4のOSS事情をちゃんと知っているならわかっているはずだが、明確な問題になりかねないところを間違えている人が意外と多いのでまとめておこう。

エミュレーター部分のソース公開を求められる

このままPCSX ReARMedがベースのエミュレーターを使用してPSクラシックを販売すると、PCSX ReARMedが採用しているライセンスであるGPLv2の利用条件により、プレイステーション クラシックのエミュレーター全体のソースコードをGPLv2で公開することを求められる(もっと厳密に言うと少なくとも購入者でソースを求めている人にソースを開示する必要がある)。もし一切ソースコードを公開せずにPSクラシックの販売を続ければ、ソニーはGPLの利用条件に違反することになり、PSクラシックを著作権侵害として訴えることが可能な状態になってしまう

GPLの簡単な解説

GPLでの利用条件を簡単にまとめると次のようになる。

  1. 無保証である
  2. 著作権表示を保持しなければならない
  3. 誰でも自由に複製・改変・頒布することが許可されている
  4. GPLで公開されているソフトウェアを改変したり自らのプログラムの一部として組み込んだ場合にその派生的・二次的な制作物にもGPLを適用しなければならない

1や2はほぼすべてのオープンソースライセンスに当てはまるし、3もオープンソースライセンスの定義に関わることなので、1~3はGPLでとくに注意すべきことではない。
GPLで重要なのは4である。いわゆるコピーレフトというやつである。これによって、GPLのソフトウェアを改変して公開したり、自分のソフトウェアに取り込んで使った場合にもGPLにする義務が生じ、また、ソフトウェアを再配布するときにも再配布した人たちにソースコードを開示できるようにしなければならない。このような性質があるために企業から嫌われがちだし、内部で使うとしても注意する必要がある。

なお、GPLのソフトウェアとのプロセス間通信や別プロセスとしての起動などでは基本的にGPLにしてソースコードを公開する必要はない。GPLのソフトウェアを改変して個人や一つの企業だけで使う場合やWordPressのサーバーのようにソフトウェア自体を再配布していない場合も同様である。

もしコピーレフトでないライセンスを採用したエミュをベースにしていたら?

コピーレフトを採用しておらず独占的なものとして再頒布できるライセンスもあり、代表的なものとしてはMITライセンスやBSDライセンスやApacheライセンスなどがある。これらのライセンスを採用したソフトウェアでは改変をしたり自分のソフトウェアに組み込んだりして公開しても必ずしもソースコードを公開する必要はない。著作権表示を保持しなければならないから完全にオリジナルだと言い張ることは許されないが。

もしPSクラシックで前述のコピーレフトでないオープンソースライセンスのエミュレーターをベースにして改良していたとすれば、基本的に著作権表示をしていればソースコードの公開なしに開発できていたということになる。

PSクラシックのエミュをベースに派生エミュができるかも!?

このままPCSX ReARMedがベースのエミュレーターを使用したPSクラシックが販売されエミュレーター部分のソースコードも公開されれば、さらに派生エミュができる可能性がある状況にある。PSクラシックのエミュが派生エミュができるほどの価値があるものなればエミュ界隈が面白いことになるかもしれない。

ちなみにNEOGEO miniはエミュ部分のソースをさりげなく公開している(「オープンソースソフトウェア」のリンクから)。

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実際には明白な問題にはならない間違いやすい点について

オープンソースソフトウェア(OSS)を使うことそのもの

これが問題だと思っている人はPS4やSwitchはOSとしてFreeBSD(書き方は違うが利用条件は実質的に2条項BSDライセンスと同じ)を使っていることや、クラシックミニシリーズはOSとしてLinux(ライセンスはGPLv2)を使っていることを忘れないでほしい。それと、AppleやMicrosoftですらOSSと密接に関わっている。意外とOSSは企業でも使われるものなのである。

PSクラシックのエミュがOSSのエミュがベースであること

OSSのエミュがベースであることだけを理由にPSクラシックの仕事が雑だと言う人が多いが、それは再現度などの面から見れば大きな問題になるとは限らない。某ゲハブログがPSクラシックが「アマチュアの作ったエミュ」で動作していたと書いているのも非常に悪意がある書き方だ。ベースのエミュがOSSなら利用条件を守る限りはいくらでもソースを改良して再現度を上げたり画面オプションなどの機能を追加したりすることは許されているし、ユーザーにとって便利な機能を追加することもできる。OSSのエミュを使ったからといってそれだけで技術力が低いということはできない。

※2018/12/05追記
結局さまざまなサイトで酷評されるほど出来が悪いようである。ゲームの再現度が低いことや(本体の外観のほうはむしろ高いようだ)無視できないほどの入力遅延、ニンテンドークラシックミニにある画質設定が一切ないことなどが原因のようだ。残念ながら私は持っていないのでレビューできないのだが、まあやる気や愛がないなあとしか言いようがないこと。中途半端にクラシックミニの人気にあやかるのはやめようね!
しかも、発売から2日もかからずにPCSX ReARMedから変わっちゃいない隠しメニューへの行き方も発見されている。中途半端にメニューから一部の設定項目を消すだけでええんか。

まとめ

PSクラシックが、GPLv2がライセンスである「PCSX ReARMed」をエミュのベースに使って発売することで起き得る明白な問題はソースコードを一切公開しないで販売を続けてGPLを違反することだ。(ちゃんと遵守されました)OSSのエミュを使うことそのものは何も問題ではない。

ソースコードの入手先

※2018/12/05追記
PSクラシックで使われる各ソフトウェアのソースコードはここから入手可能。
ソフトウェアの名前をクリックしたあとに”the source code of the program is made available to you from here”の”here”のところをクリックすればダウンロードできる。
PS4で使われているOSSもソースコードが公開されているが、今回もGPLライセンスで必要なソースコード公開の義務は果たしたことになる。

コメント

  1. romeos より:

    「ソースコードはここから入手可能」と書いてますが、件のページは使用しているオープンソースソフトウェアの一覧だと思いますよ。ソースコードは見当たりません。

    • kagiknkagikn より:

      ソースコードはちゃんと置いてます。エミュなら”PCSX ReARMed”のところをクリックして”the source code of the program is made available to you from here”の”here”のところをクリックすればダウンロードできます。